フィギュアスケートのブレード開発

運命的に始めた

1月中旬からTV各局と複数の新聞社から取材の問い合わせが相次いだ。当社の開発したフィギュアスケートのブレードに関する取材である。

2012年、小塚崇彦元選手が別件で来社の際に持参していたシューズを一見して驚いた。ブレードは錆びており、靴底の金属部は“へ”の字に変形し、本来靴底と垂直にあるべきブレードが外側に曲がっている。聞くところによると、アマチュアがレンタルするシューズと同じ品質だという。形状、溶接状態もばらつきが多く、練習中はもちろん競技中に破損し怪我のリスクも高く、宇野昌磨選手は3週間毎に道具を交換しているとのこと。演技内容が進化する中、高度な技術が要求される近代フィギュアではなおさらである。一世紀近く特殊鋼事業に携わるものとして問題点は一目瞭然!「うちならもっと良いものができるのに」と思わずひとこと発したのが開発のきっかけとなった。

材質の選定、硬さ・靭性の条件出し、加工法案の検討等を繰り返し、2018年に初の日本製、溶接部のない一体成形ブレードが完成した。とは言え、名もない会社の製品が市場に浸透するのには時間を要したが、「折れない・曲がらない・刃持ちが良い」という評判は徐々に拡がり、宇野選手、木原・三浦ペアによって披露され、見事に表彰台に上った!10年の努力が報われた瞬間である。因みに、宇野選手は昨年7月から一度もブレードを交換していない。

各方面からの問い合わせも増え、安心・安全な一般向けブレード開発も始まった。ブレード開発を通じて社内のモチベーションも高まり、3Dプリンターを用いたAM(Additive Manufacturing)事業や、大きな省エネ効果でSDGsに貢献するSWCNT(カーボンナノチューブ)を用いた表面処理技術の開発等、独自技術にこだわった他社に真似のできないスタートアップ事業が花開こうとしている。

■株式会社山一ハガネ
https://www.yamaichi-hagane.jp

記:寺西基治(大31)